■いま深圳がなんだかアツイ
香港のお隣り深圳といえばスマホなど最新の電子機器を大量生産する工場がいっぱいある街だけど、近年それとは違う方向での発展が漏れ伝わってきている。その方向性は僕が手がけようとしてる事業と密接な関係あるので、行ってきましたよ深圳に。
Maker界隈では超有名人なチームラボの高須正和さんが年に数回「ニコ技深圳観察会」と銘打って完全ボランティアでツアーを開催してくださっている。僕も昨年参加申し込みしていながら仕事で行けなかったのだが、今回は各方面のサポートもあり、時間確保できたのだ。
チームラボの高須さんは、Makerコミュニティの発展のためにハブ役を担ってくださり、さまざまな手配を快くこなして頂いてもう感謝してもしきれないくらい。実りある時間を過ごさせて頂いた。
Maker Faire Tokyoなどで猫耳のお姿をみたことある人は多いと思う。高須さんはシンガポールや深圳のMaker Faireにおいては運営側という立場で、この業界に不可欠な存在として特にアジアのMaker界隈では知らない人はいない方で、いろいろなことに気遣いを回してくださる本当のナイスガイです。
深圳の動向やメイカームーブメントに関心のある方は、ぜひとも高須さんの著書をご一読されることを強くお勧めする。
・「メイカーズのエコシステム」
https://www.amazon.co.jp/gp/aw/d/B01AXRCDTU/■深圳の電気街「華強北」(ふぁーじゃんぺい)
この場所をひとことで言うと「アキバのヨドバシみたいな巨大な建物に小さなパーツショップがびっちり入ってて、それが10フロアとかあるビルが10個以上連なってる」ような場所。
ここを「深圳の秋葉原」と称する向きもあるが、まず家電はほぼ売ってないし、パーツショップにおいても秋葉原とはかなり性格が異なる。その意味で「秋葉原は負けている」という評価はまったく当たらなくて、とにかく性格が異なるのだ。うまく活用するには、その辺をちゃんと知っておこう。
40年前、小学生の頃からアキバに通って電子工作してた僕としては無条件にワクワクな場所なわけだが、ここで扱われてる品目別に電気街としての特徴をまとめてみる。
ただしこの電気街はあまりに巨大なので、回った場所により各自感想に差異が出るものなので、以下はあくまで僕の印象として読み取ってほしい。
【山寨携帯】
「山寨」とは山賊の住むような場という語で、転じて「パチモン」的な意味合い。違法コピーソフトを「海賊版」と呼ぶが、ハードのほうは山賊なのだ。
深圳には、海外から委託を受けてスマホを量産する工場が大量にあるわけだが、10万台受注したらこっそり11万台作って余った分横流し、なんてことが行われている。また、有名製品のパチモンももちろんある。
という意味では安くて怪しい製品なのだが、たとえばiPhoneを模した小型携帯など、機構的にはオリジナルなものもある。外見はiPhoneっぽいのにAndroid機だったりね。
このあたりは商標的に問題ある製品も多いが、一方で彼らの技術力の高さを示すものでもある。
なお小型の携帯はディスプレイに「4G」とあってもそれウソでGSM機なことも多いので注意。「GSMって何?」という方はここで買い物しちゃダメ。
【中古iPhone】
仕様が公開されてるAndroidと異なり、iPhoneは基本的に正規品しかない。CPUもいわゆる「SoC(System-on-a-Chip)」と呼ばれる専用品だから、原則パチモンは作れないのだ。しかし彼らはそれで諦めるようなヤワじゃない。
世界中から壊れたiPhoneを大量に集め、徹底的にバラして組み直している。ケースや液晶パネルなどは偽造できるし電池も入手できるから、マザーボードさえあればなんとかなるのだ。
中身が本物でも外装が偽造品だとパチモンには違いないので安くても買ってはダメだが、その根性には敬服する。
華強北の中にもこうした再利用パーツを取引するマーケットがあり、そこは周囲とは違った怪しさ満載であった。その場所を教えてくださった高須さんも「ここだけは写真撮っちゃダメです」と注意喚起するレベル。
【携帯アクセサリ】
いま華強北で最もビジネスが盛んなカテゴリ。ケースや保護フィルム、モバイルバッテリー、外付メモリなどのお店が数百というレベルで存在する。
これらの店は基本は問屋だが、1つでも売ってはくれる。モバイルバッテリーなどはケースを選び、電池のランクを選ぶとその場で俺専用な感じで組み立ててくれる、そんな感じだ。
【ドローン】
深圳といえば、いまや世界的ブランドとなったDJIもあるが、街中にはそれよりはショボいものの様々なドローンが売ってる。大勢が行き交う繁華街でガンガン飛ばしてるのだが、公安の見回りが来ると慌てて降ろしてるのが笑える。
基本どれも技適は通ってないので、日本で電波出すと違法になる点には気を付けよう。
日本でも一部に愛好者がいる「FPV(First Person View)」用のアナログ動画送受信機も売っている。レースにおいてはデジタル映像では遅延があるため、アナログ伝送するのだ。日本ではアマチュア無線資格保持者が回路図を申請して使えるので、これは合法になる。
【LED】
華強北の中心的ビルでフードコートが便利な「華強珠宝世界」の上層階は、LEDの専門店街になっている。主流は店舗などの装飾に使うテープ状のLEDストリップ。
秋葉原にもこれの専門店があるが、深圳ならずっと安く買える。ただしLEDの制御というのは一般の人が考えるよりはずっと複雑な点には留意しよう。
たとえば100個のLEDを光が走るように制御したいとする。そのために101本の線を配線するのは不可能だし、そんな数のI/Oを持ったボードなんて存在しない。
そこですべてのLEDに制御用ICをつなげて、電源含め3本ないし4本の線で並列につないで制御するのだ。となると制御ICの仕様を知っておく必要があるが、この手ではお馴染みの「WS2812」と呼ばれる8pinのICを深圳でも見かけたので、これなら自前でのArduinoなどでの制御もなんとかなる。
LED屋さんでは専用のコントローラや電源を用意しているが、これらの組み合わせ方法や必要な容量の計算には一定のノウハウは必要ではある。
なお電子工作界のクイーン的存在なLady Ada率いるAdafruitsでは「NeoPixel」と呼ばれるLEDシリアル制御の規格品を売っていてサンプルアプリも多数あるが、僕が深圳を回った限りにおいてはNeoPixelを知ってる店員すらいなかった。
【LSIなどの半導体】
どこかから抜いてきたiPhoneのSoCを売る怪しい店もあるが、世に出回っている一般的なICやトランジスタはおおむね入手できそう。
ただし秋月電子のように名前と価格を表示してスペックシートとともに売ってるとかではなく、リールなりレールなりに無造作に入ってるだけなので、単発の自作のための買い物はたぶん無理。
電気街の裏通りビルにはこうしたICの商社がお店を並べているが、そこはもはやコンシューマ向けではなく完全なプロの領域。普通の商社が、中国的慣習の元でオープンな事務所を構えてるに過ぎない。
実はICにもパチモンが横行している。たとえばUSBシリアル変換のPL-2303というポピュラーなICも模造品が多く、最新のドライバではこれをハネる仕組みがあったりするので、安くてもうっかり買えないのだ。
趣味レベルの電子工作では、秋月電子やAitendoで買う方が無駄がないっす。
【抵抗・コンデンサなど】
基本的な受動素子を扱う店も多く、これらはまさに20年前のラジオデパート的だが、1個2個の商売ではないので活用は難しいかも。
【PCパーツ】
秋葉原や香港のシャムスイポーは「電気街」であり「電脳街」でもあるが、華強北にはPCパーツの店は割と少ない。もちろん一通り手には入るが、1つの店でまとめ買いなんてのは無理で、割と苦労はする。
【コネクタ・ケーブル類】
これは本当にたくさんあり、オーダーメイドも可能。ただしHDMIはあるけどBNCはほとんど見当たらないというように、あくまでコンシューマ用途が中心。
【その他プロ向けパーツ】
ラックや液晶マウントなどのプロ仕様なお店も数は多くないが存在し、基本は工場と直結してるので話は早そう。ただし信頼に値する取引先を開拓するのは骨の折れる仕事ではある。もちろん、探せばなんでも手に入る感はある。
■華強北活用法
そんな感じで、観光客でも気軽に利用でき面白製品のお店を回るぶんには楽しいが、パーツショップについては活用するのは割と難しい。
サーボやロボットパーツ、Arduino互換ボードなどは1日歩き回ってやっと発見したというレベルなので、このカテゴリの部品をAliexpressなどで発見してもっと安く買おう、なんて気持ちで訪れても成果を得るのは難しい。素直にサイトで頼んだほうがいい。
なお中国は部品の輸入にはとんでもなく手間がかかるので、電子機器の製造に使う部品は基本的に国内で入手できる。というか、部品入手において世界最強のサプライチェーンが存在するのが深圳の強みであり、これにより企業は他に移転したくてもできないという状況。
■中国的ファミリービジネス?
中国にはこのほかに、浙江省の義烏(イーウー)という、100円ショップで扱うような雑貨の問屋が数万件集まってる恐ろしい街もある。
僕も数年前に訪れたが、ここで買付して商売は十分できそうな、そんな街だった。
笑えるのは世界各国の土産物を売る問屋があり、アフリカなどから買付に来てること。民芸品的なものも、地域によってはなかなか上手には作れないそうで、器用で商売上手な中国人が作ってるというわけだ。
そして華強北にしても義烏にしても、子供がそこいら走り回ってる。特にプロ向けゾーンでは台車で遊んだり、スロープを段ボールで滑ったりの微笑ましい光景が繰り広げられる。
いくら中国でも勤め人はそうは子供を職場に連れてこれないだろうから、たぶんファミリービジネスが主体なのだろう(あくまで推測)。
■深圳に行こう!
華強北を訪れるなら、ニコ技深圳ツアーに参加された方のブログであらかじめ街の概要と立地を調べておこう。
基本は会社なので土日は休みな店も多く、旧正月は完全に止まる。朝は9:30くらいから店によっては12時開店とかで、夕方は18:30位で閉まる。
そんな感じなのでまる1日では消化不良になるから、2〜3日かけてのんびり把握するくらいの気持ちでいよう。そして面白いもの見つけたら即買いが原則。なんせ同じとこに戻ってこれる保証はないのだから。
宿もぜひ華強北エリアに取ろう。僕が利用した以下のホテルは1泊7,000円程で、電気街に接してる便利な場所だった。
http://jp.hotels.com/hotel/details.html?hotelId=371823深圳は地下鉄もよくできており回りやすい街だが、hotels.comやGoogleマップのポイントは基本全部ウソだと思ったほうがいいので、なるべく道に迷わないよう頑張ろう。
また、余分な買い物しちゃった場合は街中に多々ある発送業者から日本に送ることができる。料金は中身により様々だが、ある人が7kgの家電品をFeDexで日本に送ったら6,000円程だった。
中国では郵便局で扱うEMS便が比較的安価ではあるので、次回は試してみようかとは思うが、ビジネス用途ならちゃんとした輸送手段を確保する必要はある。
■ニコ技深圳ツアー
このツアーは現地集合・現地解散、完全自己責任と高須さんのボランティア行動により成り立っている。
自分で飛行機と宿を手配し集合場所に行くのは別段難しくはないとは思うが、その辺が自力でできない方は、間違っても教えてクン的に問い合わせはしないでほしい。深圳は近代的な都会なので、自力で普通に動けるが、海外旅行にパックツアーを利用するような人だとそれでも難しいかもしれない。
実際、今回のツアーで訪れた某社は、変な日本人がノーアポで訪問してきて業務の邪魔となるため、住所を非公開にしてしまった。
英文で一言アポを取るということを何故しないのかわからないが、とにかくそんな感じなのでお察しください。
華強北を始めとした深圳のレポは、過去のニコ技深圳ツアー参加者の方がクオリテイの高い投稿をされているのでぜひ読んでみてほしい。
それとは別にアフィリエイト目的のようなサイトや、一部の素人Webメディアは割とデタラメな記事を書いてるので、読み手としてのネットリテラシーを駆使して情報の取捨選択はちゃんとしておこう。
今回、多くのMaker関連企業を訪問したので、追って書ける範囲の話は追加してゆく。